宝物殿前の芭蕉像 参道中腹にある「せみ塚」
奥の院(如法堂) 納経堂
五大堂から見た風景 山寺芭蕉記念館
「おくのほそ道」出羽路の芭蕉Top

山寺立石寺―閑さや岩にしみ入蝉の聲

 山形領に立石寺といふ山寺あり。慈覚大師の開基にして、殊に清閑の地なり。一見すべきよし、人々の勧むるによりて、尾花沢よりとって返し、その間七里ばかりなり。日いまだ暮れず。麓の坊に宿借り置て、山上の堂に登る。岩に巌を重ねて山とし、松栢年旧り、土石老いて苔滑らかに、岩上の院々扉を閉ぢて、物の音きこえず。岸をめぐり、岩を這ひて、仏閣を拝し、佳景寂寞として心澄みゆくのみおぼゆ。

 閑かさや岩にしみ入る蝉の声

                            (角川文庫本『おくのほそ道』)

国指定の名勝・史跡
宝珠山立石寺の登り口


 宝珠山立石寺は、貞観2年(860)清和天皇の勅願により慈覚大師が開山した天台宗の古刹です。全山が凝灰岩の山で奇岩怪石におおわれ、国の名勝・史跡に指定されています。

 5月27日(陽暦7月13日)の晴れた日、午前6時30分ごろ清風らのすすめで、羽州街道を立石寺に向いました。天童宿から山寺街道にすすみ、午後2時ごろ山寺立石寺に着きました。その日のうちに「山上・山下巡礼終ル」でした。山寺での芭蕉の句の初案は「山寺や石にしみつく蝉の聲」で、再案の「さびしさや岩にしみ込蝉のこゑ」を経て、「閑さや岩にしみ入蝉の聲」の句形に落ちつきました。この句は俳諧に目を開かせてくれた主人藤堂良忠(俳号蝉吟)への追悼句であるといわれています。山寺は死者の魂が集まる霊山であるから、芭蕉は蝉の聲を死者の声として聞いたのではないでしょうか。臨終の際の息もだえの状態でものいうかすかな声を「虫の息」というからです。芭蕉は、「佳景寂莫として心すみゆくのみおぼゆ」と、山寺での宗教的体験を記しています。