芭蕉翁行脚十八ヶ條の掟

尾花沢歴史文化専門員 梅津 保一

 

 

蕉翁行脚十八ヶ條の掟

 

一、一宿なすとも故なき所には再宿すベからず、樹下石上に臥すとも、

あたゝめたる筵と思ふベし

一、腰に寸鉄たり共帶すベからず、惣してものゝ命を取る事なかれ

一、君父の仇有る處へ門外にも遊ぶベからず、いたゝき踏ぬ心しのば

さる情あれハ也

一、魚烏獣の肉を好んで食すべからず、美食珍味にふける者ハ、他事

にふれやすきものなり、菜根を喰てたるなすの語を思ふべし

一、衣類器財は相應にすベし、過ぎたるハよからず、足らざるもしからず

一、人の求なきにおのか句を出すべからずのそみをそむくもしからず

一、たとひ険阻の境たり共、所労の念を起すベからず、起らバ途中より立帰るべし

一、故なきに馬駕籠に乗るべからず、一枝をわかやせ足と思ふべし

一、好んで酒を呑べからず、饗應によりてハかたく辞しかたく共、微醺にして止ムむべし、乱に及ずの節、迷乱起罪の戒祭りにもろみを用るも酔を悪んてなり、酒を遠ざかるの訓あり、つゝしむべし

一、船錢茶代忘るベからず

一、夕を思ひ旦をおもふべし、旦暮の行脚といふ事ハ好さる事なり

一、人の短をあげて、己が長にほこるハ、甚だいやしき事なり

一、俳談の外、雑談すべからず、雑だん出なバ居眠りをして己が労を養ふべし

一、女性を俳友に親しむべからず、師にも弟子にも入らぬものなり、此道に親炙(しんしゃ)せバ、人を以て傳ふベし、惣て男女の道は嗣を立てるのみなり、流蕩すれバ、心熟一ならず、此道は主へも敵にしてなす、己をかへりみるべし

一、主あるものは一針一草たり共、取べからず、山河澤皆主なり慎むべし

一、山河旧跡親しく尋ね入るベし、新に私の名を付べからず

一、一字の師たり共、忘るべからず、一句の理をも解せず、人の師と成事なかれ、人に教るハ己れをなしたる上の事也

一、一宿一飯のぬしをもおろそかにおもふベからず、さりとてこびへつらふ事なかれ、如斯の人ハ奴たり、只此道に入る人ハ此道の人に交るベし

       十八ケ條終

 

 

     蕉翁行脚十八ヶ條の掟

 

一、一宿なすとも、故なき処ニハ再宿すベからず、樹下石上ニ臥すとも

あたゝめたる筵と思ふベし

一、腰ニ寸鉄たり共帶すベからず、惣してものゝ命を取事なかれ

一、君父の仇ある處へハ門外にもあそぶベからず、いたゝき踏ぬ心しの

ばさる情あれハなり        

一、魚烏獣の肉を好んで食すべからず、美食珍味ニふける者ハ、他事

にふれやすきものなり、菜根を喰てたるなすの語を思ふべし

一、衣類器財ハ相應にすベし、過たけるよからず、足らざるもしからず

一、人の求なきにおのか句を出すべからず、のそみをそむくもしからず

一、たとひ険阻の境たり共、所労の念を起すベからず、起らバ途中よりたち返ルべし

一、故なきに馬駕籠に乗るべからず、一枝をわかやせ足と思ふべし

一、好んで酒を呑べからず、饗應によりてハ、かたく辞しかたく共、微醺ニして止ムむべし、乱ニ及の節、迷乱起罪の戒、祭りにもろみを用ルも酔を悪んてなり、酒を遠ざかるの訓あり、つゝしむべし

一、船錢茶代忘るベからず

一、夕を思ひ旦をおもふべし、旦暮の行脚といふ事ハ好さる事なり

一、人の短をあげ、己が長にほこるハ、甚ダいやしき事也

一、俳談の外、雑談すべからず、雑談出なバ、居眠りして己が労を養べし

一、女性の俳友ニ親しむべからず、師にも弟子にも入らぬもの也、此道に親炙(しんしゃ)せバ、人を以て傳ふベし、惣じて男女の道ハ嗣を立テるのみなり、流蕩すれバ、心熟一ならず、此道ハ主へも敵ニしてなす、よくよく己をかへりみるべし

一、主あるものは一針一草たり共、とるべからず、山河澤皆主なり、慎むべし

一、山河旧跡親しく尋入るベし、新ニ私の名を付べからず

一、一字の師たりとも、忘るべからず、一句の理をも解せず、人の師と成事なかれ、人に教るハ己をなしたる上の事也

一、一宿一飯のぬしをもおろそかにおもふベからず、さりとてこびへつらふ事なかれ、如斯の人ハ奴たり、只此道ニ入る人ハ、此道の人に交るベし

       十八ケ條終

 

 

     行脚之掟

 

一、ひとつ宿に故なきに再宿すベからず、樹下石上に臥すとも暖かなる

席(むしろ)とおもふべし

一、腰に寸鐵たりとも帶すベからず、惣て物の命を取ることなかれ

一、君父の讐(あだ)ある處には門前にも遊ぶべからず、倶(とも)に天を

戴かざる忍びざる情あればなり

一、衣類器財相應にすベし、過きたるはよからず、足らざるもしからず、程あるべし

一、魚鳥獣の肉を好むで喰ふべからず、美食珍味に耽(ふ)ける人は他事にふれやすきものなり、菜根を咬(か)みて百事をなすべき語を思ふべし

一、人のもとめなきに己か句を出だすべからず、望を背(そむ)くもしからず、問はざるに説くは説くにあらず、問ふに答へざるはよろしからず

一、たとへ險岨の境たりとも、所労の念を起すベからす、起らば中途より歸るベし

一、馬駕籠にのること勿(なか)れ、一枝の枯杖をおのれか痩臑(そうじゅ)とおもふベし

一、好むで酒を飲むべからず、饗應により固辭しがたくとも、微醺(びくん)にして止むべし                                                   亂に及ばすの禁あり、祀歳(しさい)の戒祭(かいさい)にもろみを用ゐるも、酔(よ)へるを憎みてなり、酒に遠ざかるの訓(くん)あり、慎めや

一、舟錢茶代忘るベからず

一、他の短を挙げて己が長をあらはす事なかれ、人を謗(そし)って己れにほこるは甚だいやし

一、俳談の外雑話すべからず、雑話出でなば居眠りして労をやしなふべし

一、女性を俳友に親しむべからず、師にも弟子にも入らぬ事なり、此道にしたしめば人を以て傳ふベし、惣(すべ)て男女の道は嗣(つぎ)を立つるのみなり、流蕩(りゅうとう)すれば心敦一(とんいつ)ならず、此道は主一無適にしてなす能く(よ)く己れを省むべし

一、主あるものは一杖一草たりとも取るべからず、山川江澤にも主(しゅ)ありつとめよや

一、山川舊跡したしく尋ね入るベし、新たに私の名を付ける事なかれ

一、一字の師恩たりとも忘るゝ事なかれ、一句の理をだに解せず、人の師となる事なかれ、人に教ゆるは己れをなして後の事なり

一、一宿一飯の主(ぬし)もおろそかにおもふベからず、さりとて媚(こ)び諂(へつ)らふ事なかれ、如是(かくのごとき)の人は世の奴(やっこ)なり、此道に入るものは此道に交はるベし

一、夕(ゆうべ)をおもひ、旦(あした)を思ふベし、旦暮(たんぼ)の行脚といふ事は好まざることなり、人に労(ろう)をかくることなかれ、屡々(しばしば)すれば疎(うと)んぜらるゝを思ふべし

      以 上